秋場所のさなかに飛び込んできた井筒親方の訃報。現役時代を知る人や周辺の方々から悲しみのコメントが寄せられています。
そんな中、弟子の横綱鶴竜の心境は単純に師匠を亡くしただけではない複雑なものがあるのではないかと推察されます。
角界の決まり事や師弟関係というものを考えると鶴竜さぞかし辛いだろうなぁと…
井筒親方の急逝
もろ差しの名人として鳴らした元関脇 逆鉾の井筒親方は秋場所9日目の16日、すい臓がんのため入院先の病院で亡くなりました。58歳 まだまだ全然これからの若さでした。
葬儀の日程は通夜が場所後の9月24日18時から、葬儀は時津風一門葬として翌日25日の11時から ともに両国の井筒部屋で営まれます。
先場所鶴竜が優勝した時はなんの異変も感じさせない元気そうな姿を見せていましたが、秋場所前の8月末に入院、16日になってから容体が急変したとのことです。
逆鉾は父親の元鶴ヶ峰の井筒部屋に兄弟3人で所属して井筒三兄弟で鳴らしました。

亡くなる前日に兄の元鶴嶺山と弟の錣山親方が見舞ったとき、もう言葉がほとんど出せない状態だったそうです。
ただ、相撲取りは親の死に目にも会えない覚悟をせよと言われる世界で、兄弟3人で最期の別れができたことは幸いだったと思います。
井筒部屋の3人の弟子たちは師匠の容体が芳しくないことはもちろん分かっていたようです。部屋の鶴大輝が自身の取組後に気丈に取材に応じていました。
師匠を突然失うということ
鶴竜は秋場所を途中休場してしまったので表立ってのコメントはまだ出していません。ただその心中は複雑な思いが交錯しているのではないかと思います。
弟子たちの処遇
相撲部屋は師匠がいないと相撲部屋として認められず、部屋に所属していないと本場所に出られないという決まりがあります。たとえて言うなら、高校球児はどこかの高校に在校していないと甲子園に出られないようなものです。
今回のように師匠が突然いなくなってしまうとき、部屋付きの親方がいればあとを継ぐことが多いのですが井筒部屋のように部屋付きがいない場合はけっこう大変。
あらかじめ部屋継承の指名を受けている継承資格者がいれば即日引退して部屋を継ぐこともできますが井筒部屋には継承資格者がいないのでどうなっちゃうの??とハラハラでした。
17日の正午から臨時の理事会が開かれて秋場所いっぱいは井筒部屋の所属とし、その後は一門トップの鏡山部屋の預かりという形に収まることが決定されたようです。
師匠は親同然
ひとまずの処遇が決まったことで井筒部屋の力士衆は宙ぶらりんにならずに済んだのですが、さりとてこれで一件落着とは言い難いところがあります。
日々寝食を共にする師匠と弟子は親子同然の関係といわれます。
多くの力士が「この師匠の元だったから続けてこられた」と口にしますし、もしも部屋を変わるとしたら?と問うと相撲をやめると答える人すらいます。
力士衆にとって違う部屋の力士になるということは、野球選手がトレードに出されて違うチーム違う監督の下でプレーするような割り切りができないもののようです。
嘉風はかつて部屋の力士が不祥事の当事者として処分されることになり、師匠の尾車さんが責任をとるために部屋をたたもうとしたときに「親方が辞めるなら自分も辞めます」と尾車さんの退職を止めました。
碧山は入門したときの親方だった14代田子ノ浦親方が心不全で突然亡くなり所属の力士が一門の出羽海部屋と春日野部屋に分割して引取られることが決まって 一度は相撲を辞めて帰国することを考えました。
そのほかにも名跡のゴタゴタで21代春日山親方が退職を余儀なくされたときに部屋の力士の半分近くが師匠のあとを追うように土俵を去っていきました。
真摯な「相撲取りになりたい」という気持ちを汲んで、床山にしようかと思うほど細くて頼りなかったアナンダ少年をどこに出しても恥ずかしくない横綱に育ててくれた井筒親方に対して、鶴竜もこの親方の元だったからという思いを強く持っています。
国籍取得と横綱という立場
鶴竜も土俵を去った後は弟子を育てたいという夢を抱く力士の一人です。そのための帰化申請もすでにしていると聞きます。
もしも白鵬のようにすでに国籍を取得していたら、もしかしたら師匠の死を受けて即日引退して井筒部屋を継承したかもしれません。
しかし鶴竜の帰化申請はまだ通っていません。
鶴竜が将来は弟子を育てたいという夢をかなえるためには、この先も土俵に上がり続ける必要があります。
来場所からは鏡山部屋の力士として土俵に上がることになる鶴竜ですが、育ててくれた親方を失って気持ちを保つことができるんだろうか。
悲しい言葉にならない
逆鉾の弟子鶴竜が優勝し、優勝旗を授与した場面で嬉しそう笑っていたのが思い出されます…。
ご冥福をお祈りします。#逆鉾 #井筒親方 pic.twitter.com/tWWG62Msy8— ハウル (@610sumo) September 16, 2019
関取になれないままのベテランなら、これを契機に土俵を下りて新たな道を歩む決断ができるかもしれません。しかし鶴竜は日下開山、天下の横綱です。相撲協会の看板力士です。多くのファンの前で気持ちの入らない横綱らしくない相撲を取るわけにいかない立場にあります。
鶴竜は、辛いだろうな…
井筒の名跡が今後どうなるかはまだわかりません。鶴竜を含む弟子集は預かりの形で鏡山部屋に所属することになりましたが、預かりということは井筒部屋が再興されることが前提だと思います。
個人的な希望では、鶴竜に井筒の名跡を継いでほしいなあ…
亡くなった師匠の『井筒』の名跡、どうか鶴竜の帰化申請が通って鶴竜がもう十分相撲を取りましたと思うまで誰の手にも渡らないでいてくれますように。
【追記】
井筒部屋所属の3人の力士と床山は陸奥部屋への移籍が決まりました。
鶴竜も話し合いに参加して一門から誰か親方に来てもらって井筒部屋を存続させてほしいと希望を述べたようですが調整が上手くいかなかったようです。
稀勢の里の引退相撲で鶴竜は『陸奥部屋の横綱』として土俵に上がりました。
横綱としては盛りを過ぎたと言っていい鶴竜にとって、この移籍はいろいろと負担になることも多かろうと思いますが、亡き師匠への弔いの賜杯を抱くことがまずもっても目標なんでしょうね。
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