佐伯市などを提訴した元嘉風の中村親方は裁判に勝てるか 不幸な事故の責任所在を問うことの影響を考えてみる

中村親方不祥事・ごたごた

10月19日、元嘉風の中村親方が生まれ故郷の佐伯市などを相手どって訴訟を起こしたことが報じられ波紋が広がっています。

昨年6月の佐伯合宿中に起きた事故により現役引退を余儀なくされた中村親方は、引退会見の席上では「誰も恨んでいない」「市として出来る限りのことはすると言ってもらっている」と語っていました。

後腐れを残していないものだとばかり思ってたところに降ってわいたような提訴に、世間ではなんで今頃になって?という疑問とともに賛否両論あるようですが、この裁判は中村親方に勝ち目があるのでしょうか。

中村親方の訴訟概要

これまで応援してもらってきた生まれ故郷を訴えるってことは、そこに至るまで様々な葛藤があったろうと想像できますが、地元の人の声はこんな感じです。

「けがをしたのは自分のせいだと思う。誰がしたわけでもない、自分の不注意だと思う。悲しいな、今まで盛り上げてきたのにな」

「同情しますね、嘉風関に。市の対応があれじゃなかったんですかね、
悪いっていうか」などの声が上がった。

https://www.fnn.jp/articles/-/97682

争点は?

今回の訴訟で中村親方は佐伯市のPR活動の一環として参加したキャニオニングで足首にマヒが残る大けがを負って現役を引退せざるを得なくなったと佐伯市、佐伯市職員複数名、キャニオニングの会社に賠償請求を行いました。

それに対して市側はキャニオニングは中村親方(当時嘉風)の強い希望で実施されたものなのでPR活動には当たらず市に賠償責任はないと抗戦の構えです。

キャニオニングが市のPR活動の一環だったかどうかが争点となりそうです。

いつからもめてたの?

中村親方が佐伯市などを相手どって東京地裁に訴訟を起こしたと報じられたのは10月19日ですが、佐伯市に賠償請求の通知が届いたのは今年1月だそうです。それに対して「市には賠償責任はない」と返事をしたのが今年6月でした。

第一回口頭弁論は11月27日に行われます。訴状を裁判所に提出すると書面上の不備がないかなどをチェックした上で第一回目の口頭弁論日が指定されます。

訴状が提出されてから第一回口頭弁論までの期間は平均2.7か月程度なので、6月に佐伯市から「うちに責任はない」との返事が来てから裁判起こすための資料をまとめたのかも知れませんね。

この口頭弁論は傍聴可能ですが当日中村親方自身が出席するかどうかは不明です。

中村親方は本当に強く要望したのか

合宿誘致

この佐伯合宿は佐伯市が毎年誘致して行われていた恒例行事でした。旅費や宿泊費を市側が負担する代わりに合宿に参加した力士衆は稽古を公開して相撲の普及に務めたりちゃんこ会を開いたりして地域住民との交流を図ります。

自治体が行う合宿誘致にはその自治体に益するところがないと費用を引っ張って来られないので、大なり小なり地元PRのニュアンスが含まれますし、招かれた方もそれを理解しています。

相撲は「出身地」というものと結びつきが強いものという伝統みたいのがありますから、人気力士嘉風を輩出した地という冠言葉は市にとってオイシイ部分は少なくないでしょう。

ホントに強い要望があったのか?

ライフジャケットを着けて天然のウォータースライダーを楽しめるキャニオニングは人気のアクティビティです。

ただ、3メートルくらいある滝からうひゃーっと流れ落ちたりするので高いところが苦手な人は怖くて絶対出来ないでしょう(笑)

藤河内渓谷は景勝地としての価値も十分にありますが、キャニオニングという男っぽい遊びもできるんですよぉと言われば面白そうですね!と体育会系のメンズはであればたいてい食いつくと思います。

ただ、これが川下からえっちらおっちら川を上ってそこからうひゃー!っと滑り下りるタイプだったのか、車で川上まで行って完全装備になってから「はい!行ってらっしゃい!」とどんなコースなのかよく分からんままで滑って行ったのかは重要なポイントかも知れません。

藤河内渓谷のキャニオニングの会社は今まで6000人くらい楽しんでもらったけど重大な事故は起きたことがなかったと言っています。しかし力士は平均的一般人より何十キロも重く、体格的な意味では一般人ではありません。

友風がケガした時にも思いましたが、力士自身は普段は普通に暮らしているので自分の体重がどうかすると身を危険にさらすくらいアブナイもんだと自覚してない感じがします。

遊園地の乗り物は乗車基準内におさまらない人の乗車ができないため、力士衆はディズニーランドに遊びに行ってもスプラッシュマウンテンに乗れなかったりします。そういう意味でキャニオニングは力士が一般の人と同じように川を滑り降りても良いものだったのか?という疑問があります。

佐伯市によると2018年の佐伯合宿の時にもキャニオニングをやってみたいと言われたけれど雨降りで中止になったため、2019年合宿の時に実現したものだそうです。

佐伯合宿は事前にスケジュール表が配布されていて、その中に稽古後のオフタイムに藤河内渓谷に行くことは記載されていたけどキャニオニングをすることは書いてなかった、だからこれは市としてのPR活動ではない、というのが市の言い分です。

キャニオニングの装備を用意して費用をだれが払ったんでしょ。

事故があったのは20日の稽古後か21日の稽古休みの日のどっちかだったと記憶していますのでどちらも平日。これには市の職員が同行していたようです。

市職員がプライベートで昼間に同行したとは考えにくく、合宿誘致の目的「佐伯市のPR活動」というニュアンスはあるように感じます。

この裁判が問いかけること

中村親方が地元佐伯市などを相手どって訴訟を起こしたという報道を目にした時、中村親方にその意図があったかどうかは分かりませんが私は支援者と力士の立場を見直すきっかけになり得るものだという印象を持ちました。

APOLLO PROJECT

APOLLO PROJECTとは今年7月に設立された一般社団法人で、ざっくり言うとアスリートがそれぞれの価値を最大限高めた上で引退後のセカンドキャリアに生かし社会に還元していこうという理念があります。

中村親方はその第一期生として受講していました。

どれほどの成績を上げても辞めたらタダの人になってしまうアスリートのセカンドキャリアについては以前からもうちょっとなんとかならんものかという声が上がっていましたから、元アスリートが主体になってこういう組織を立ち上げることには大きな意義を感じます。

力士は安く見られている?

中村親方が訴えでもとめる約4億8000万円という損害賠償額はなかなかの金額です。中村親方サイドはケガによって失われた大相撲の人気力士嘉風の価値をこれくらいだったとはじき出しました。

約4億8000万円という金額が妥当かどうかはさておきますが、改めて計算してみると力士は力士で要る限りそれぞれの地位力量人気に応じてかなり稼ぐ力を持っている人たちだと思います。

合宿の日程を見ていて思ったのですが、合宿といっても大会前の強化合宿みたいな雰囲気はなく稽古もするふれあい祭りって感じです。そうやってファンや地域住民とふれあうのも力士という商売の定めなのかも知れません。

人気力士は巡業のない場所後はあちこちに顔を出すスケジュールが組まれがちなのですが、時々これで体傷めたらどうするんだろとヒヤヒヤすることがあります。

援助してあげてるんだからこれくらいしてくれて当たり前だよね、という見下しがどこかにありはしないか。

何かあった時の責任の所在をはっきりさせずに使い捨てのような形にされるのはおかしくないか?

中村親方が起こした裁判には他の力士衆にとって他人事ではないこういった問題提起がなされているように感じます。

中村親方がこの裁判に勝利するかどうかは分かりませんが、勝つか負けるか以上に大きな意味を持つ裁判なんだろうなと思うのです。

コメント